専門家に聞きました
坂井信之教授
インタビュー
なぜ人は、他人のにおいが気になるのか?
そんなにおいにまつわる素朴な話を、においの心理学について研究されている東北大学大学院の坂井信之教授に聞いてみました。
自分のにおいは、なぜ自分では気づかない?
自分の家のにおいは気にしたことがないけれど、他人の家ではどうも気になる。体のにおいも、自分では気づかなくても、まわりの人は臭っているのでしょうか?
嗅覚刺激によって、感覚神経の活動がにぶくなるためです。
いいにおいでも悪いにおいでも、同じにおいを長く嗅いでいると、においの感じ方が弱くなってくることがあります。これを嗅覚の「順応」と言います。そして最終的ににおいそのものに馴れてしまってわからなくなることを「馴化(じゅんか)」と言います。これらは一定の嗅覚刺激を受け続けた結果、感覚神経の活動が低下することで起こります。自分の家のにおいを感じないのは、このためです。
それらはどうして起きる現象?
生命を守るための本能的なものです。
動物には、日常生活において意味のない反応を排除する性質があります。自分のにおいは自分に危険をもたらすことがないため、反応する必要がありません。しかもにおいを記憶しておく嗅覚に関わる脳部位は、容量がとても少ないのです。自分の体臭に記憶容量をとられてしまうと、食べ物のおいしそうなにおいや危険を知らせるにおいなどを記憶できなくなってしまいます。つまり生物の本能として、においを使って生き延びるための大事な機能だと言えます。
いやなにおいは、他人にどのくらい迷惑?
自分のにおいは、まわりの人にどんな影響を与えるのでしょうか?
一度嫌悪感を抱いたにおいは、より強く残りやすいものです。
嗅覚は、記憶と強く結びついていると言われます。ほかの感覚と違って言葉で表現しにくい「におい」は、一度覚えると記憶に強く刻まれるようです。しかも「くさい」などネガティブな記憶ほど残りやすく、嫌なにおいがずっとしているように感じることもあります。全般的に女性のほうが男性よりも嗅覚が敏感だと言われます。女性には、一度でも不快なにおいの印象を与えることがないよう、注意をした方がよさそうです。
香水や柔軟剤で、におい対策は大丈夫?
お気に入りの香水や香りのいい柔軟剤を使って、年中、においケアに気をつかっていますが・・・
香りの強さや複合臭が、かえって「スメハラ」になることも。
さまざまな香りの柔軟剤がブームとなっています。でも自分にとっての「いい香り」が、他人にとっては「いやなにおい」になることもあります。最近、体臭や口臭などによる「スメルハラスメント」が社会的な問題になってきました。香りの強い香水や柔軟剤も、時としてスメハラの要因となります。とくに夏場は汗や体臭と混ざりやすく、より強烈な複合臭で周囲の人を不快にさせないための気配りが必要です。
- 坂井信之
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東北大学大学院文学研究科
心理学研究室 教授
1969年生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科修了。日本学術振興会特別研究員、科学技術振興事業団科学技術特別研究員、神戸松蔭女子学院大学人間科学部教授を経て、2011年10月より現職。現在の専門は「応用心理学」で、主ににおいに関連する商品を中心に、人間が商品のどんなところに注目し、購入を決定するか、また、どのようにしてその商品を使い、評価するか、さらにはその商品に対する印象をどのように形成し、次の商品購入の基礎とするかということを心理学/脳科学的に研究している。