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専門家に聞きました

関根嘉香教授

関根嘉香教授
インタビュー

皮膚ガスで体のにおい(体臭)を研究する

関根教授へのインタビューから、人は誰でも皮膚からガスを発していること、その「皮膚ガス」が体のにおい(体臭)と関係していることが分かりました。

においのもと!?「皮膚ガス」とは何でしょうか?

人は誰でも、皮膚ガスと呼ばれるガスを発しているそうですが、それは一体どのようなものでしょうか?


関根嘉香教授

皮膚ガスとは、人の体の表面から放散される微量のガスの総称のことです。
放散経路は3種類に分けられます。[図1]

関根嘉香教授
[図1]皮脂ガスとは何か

血液由来

血液の中を流れている成分が揮発して出てくるガス。お酒を飲んだときに生じるアルコールを分解するアセトアルデヒド、体が疲れているときに生じるアンモニアなどもこちらに分類されます。

皮膚腺由来

皮膚内部の汗腺や脂腺から生じるガス。汗に含まれる酢酸、いわゆるすっぱい臭いはこちらが原因になります。一部アンモニア、皮脂成分も含まれますが、そこに常在菌や過酸化物が介在しないのが特徴です。

表面反応由来

皮膚の表面から生じるガス。皮膚上の常在菌が汗中の乳酸を代謝することよって発生するジアセチル、皮膚の表面に出てきた皮脂と過酸化物が反応して発生する2 - ノネナールなど、中高年の不快な臭いの原因となる物質もこちらに含まれます。

これらのガスにはそれぞれ臭いの特徴があります。そのため、その人がどんな臭いを放出しているかを測定することで、健康状態を調べることができるのです。

どんな検査方法によって測定できるのでしょうか?


関根嘉香教授

パッシブ・フラックス・サンプラー(PFS)と呼ばれる小型のデバイスを使用します。小さな紙片のような補集材を30~1時間程度皮膚につけて、微量な皮膚ガスを採取。その後測定機にかけて分析します。PFSでの採取は誰でも簡単にできるので、自分で採取してもらうことも可能です。

パッシブ・フラックス・サンプラー(PFS)イメージ

「ミドル脂臭」の原因となるジアセチルについて分かったことは?

PFSでは、「ミドル脂臭」の原因となるジアセチルも採取できるそうですね。ジアセチルについて、先生の研究から分かったことはありますか?


関根嘉香教授

30~40代の男性から特に多く出ています!
PFSで20~59歳の男女のジアセチルを捕集したところ、30~40代の男性のジアセチル放散量は圧倒的に多く、量は少ないものの女性からも捕集されたことが分かりました。[図2]

[図2]年齢と放散量 ジアセチル
[図2]年齢と放散量 ジアセチル

※ 男性14名 女性13名 年齢:20歳〜59歳 7時間捕集 捕集部位:頸部


においやすい距離は25㎝圏内

一般的なオフィスで空気中のジアセチル濃度を推定したところ、隣人のジアセチルがにおう距離は25㎝。つまり、人同士の距離が25㎝離れていればにおいを感じないでしょう。但しこれは換気がいいオフィスでの例。空気のこもった寝室などでは、その3倍近くのにおいを感じることが分かりました。

においが集まりやすいのは頭上

人間の体は発熱体。体の周りで上昇気流が起きています。ただでさえジアセチルは首や頭部の発生が多い上、上昇気流に乗ってにおいは頭の上のほうに行きやすくなります。そのため、ジアセチル臭も頭の上周辺で感じやすいのです。

ジアセチルは後頭部から発生する傾向

ジアセチルは前頭部よりも後頭部から発生しやすい傾向にあることが分かりました。後頭部から発生しやすい要因のひとつとして、毛穴・毛髪の影響が考えられます。毛穴・毛髪の存在により皮膚常在菌が活動しやすくなるため、比較的毛穴・毛髪の多い後頭部からジアセチルが発生しやすい傾向にあることが考えられます。[図3]

[図3]ジアセチルの発生部位特定
[図3]ジアセチルの発生部位特定 ※ 男性7名 年齢:40代 3時間捕集 捕集部位:前頭部・後頭部 7名の平均値

朝と夕方にジアセチルの発生量が多くなる

朝方の6時台と夕方の16時台でジアセチルの発生量が他の時間帯よりも多くなることがわかりました。このような結果になる要因として、ジアセチルは表面反応由来の皮膚ガスで、汗中の乳酸が皮膚常在菌に代謝されることによって出てくる成分であるため、人間の発汗サイクルが影響していることが考えられます。

人間は入眠時に深部体温を下げるために発汗を行うことが知られています。そのため、睡眠時にかいた汗が時間を経てジアセチルとなった結果、朝の6時台に発生量が多くなったことが考えられます。また夕方16時台に関しても、日中活動が盛んになり発汗量が多くなった結果、夕方にジアセチルの発生量が多くなったのだと考えられます。

*…小川徳雄,睡眠と発汗,臨床脳波,8(4),282-290(1966)

[図4]ジアセチルの時間ごと発生量の変動
[図4]ジアセチルの時間ごと発生量の変動 ※ 男性7名 年齢:40代 1時間毎に張替え24時間分捕集 捕集部位:頭頂部7名の平均値

寝ている間にも発生するジアセチル!「枕のにおい」の原因にも!?

図3、図4の試験結果から、前頭部よりも後頭部からジアセチルが発生しやすい傾向にあること、睡眠時、発汗サイクルの影響で朝方のジアセチルの発生量が多くなることが分かりました。

ジアセチルは「ミドル脂臭」の原因成分であることから、「枕のにおい」の原因は、睡眠時にかく「汗のにおい」だけではなく、「ミドル脂臭」もその要因のひとつとなっている可能性が考えられます。

ジアセチルのにおいを抑えるための対策を教えてください


関根嘉香教授

先述の通り、ジアセチルは表面反応由来の皮膚ガスで、汗中の乳酸が皮膚常在菌に代謝されることによって出てくる成分です。さらに皮脂と混ざることで、不快なにおい「ミドル脂臭」を発します。

そのため、においのもととなる、皮膚表面の汗と皮脂を取り除くことがジアセチルを低減させる近道です。汗をこまめに拭き、入浴時は体をよく洗い、清潔に保ちましょう。皮脂をゴシゴシとこすりすぎると、かえって皮脂の分泌が活発になるため、強くこすりすぎないことが要注意です。

今後の研究の展望は?


関根嘉香教授

PFSで個人個人の皮膚ガス(体臭)を測定、分析すると、個人間で皮膚ガスの種類や量が大きく異なることが分かります。今後、においデータを使って、指紋認証ならぬにおい認証で個人の健康診断・健康管理を実現したいと思います。

関根嘉香教授
関根嘉香
東海大学理学部化学科教授
慶応義塾大学大学院非常勤講師

1966年生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究科応用化学専攻修了。室内環境学会理事長。アジアの大気環境に関する学際的研究、室内空気汚染(シックハウス症候群)の予防・改善に関する研究に取り組む中で、人の体から発せられる皮膚ガスのにおいに着目。その分析と情報伝達機能に関する研究等に従事している。