
―まず、青森山田高校陸上部が髪型の自由を認めた経緯についてお聞きしました。
「当校の陸上部にとって、”丸刈り”は代々受け継がれてきた伝統でした。特に前任の監督は、『3年間、丸刈りで走りきる覚悟がなければ強くなれない』という考え方から、髪型へのルールに強いこだわりを持っていたようです。私がそんな伝統を変えようと考え始めたきっかけは、有力選手をスカウトする際に丸刈りを理由に断られるケースが増えてきたから。

現在、青森県下の中学校には丸刈りを強いる陸上部はないため、当校の陸上部に入るにあたって丸刈りにさせられることに抵抗感があるのだと思います。実際、青森県の選手をスカウトに行くと、6人中3人に『丸刈りだから入りたくない』と言われました。結局、その年は青森県の学生を1人も獲得できず、北海道や秋田など県外出身の学生で構成せざるを得ませんでした。私が監督に就任して間もない頃は、他校にもまだ丸刈りの伝統がある陸上部はいくつかあったのですが、近隣の駅伝出場校が丸刈りを辞め、髪を伸ばすようになってきたんです。気付けば、丸刈りを貫いているのは当部だけでした。以前なら『丸刈りになっても、青森山田で走りたい』と、入部してくる生徒が多かったのですが、そんな声が少なくなってきたことに危機感を抱き始めたんです。
丸刈りのルールを変えるにあたり、学校への決裁などは必要なく、監督の一存で決められます。しかし、ここまで続いてきた伝統なので、卒業生の意見も聴きたいと思い、約10名に電話しました。肯定的な反応がある一方で、『今時の学生って感じですね』『3年ぐらい我慢しないと』といった声もありました。それでも最後には 『部員が集まらないことによって駅伝で負けるよりはいいんじゃないですか』という意見が後押しになり、決心がつきました。」

―丸刈りからのルール変更を現役部員たちにはどのように伝え、どんな反応があったのでしょうか。
「部員たちには、駅伝の県予選で優勝したタイミングで伝えました。大会前に伝えて、もし緊張感が薄れてしまったら……という懸念があったので、全国大会への切符を掴んだ日が最良だと考えたんです。部員たちはとても驚いていましたが、嬉しそうでしたね。そこから数か月後の全国高校駅伝大会には、丸刈りではなく少し伸ばした状態の髪で出場できました。しかし難しかったのは、自由な髪型に関する細かいニュアンスを生徒と擦り合わせること。
これまでの反動か、ルールを履き違えて過度なオシャレに走ってしまう生徒が出てきたんです。ルール変更時、“あくまでもスポーツマンらしい髪型で”と忠告していたので、許容範囲に収める生徒が大半でしたが、少し奇抜な髪型にしてきた生徒がいたので、『丸刈りじゃなくていいけど、あまりにも高校生ぽくない髪型はやめよう』と、改めて説明しました。自由な髪型の境界線は難しいですが、私は髪型というよりも、爽やかさや清潔感の有無が基準になってくると思います。結果がすべてのプロの世界とは違い、アスリートである前に高校生であることは忘れないでほしいと思うんです。」

